われはロボット/アイザック・アシモフのロボット短編集 読書感想文

われはロボット アイザックアシモフ

SF好きなら知らない方はいないであろう、ロボットSFの古典的名作であるアイザック・アシモフの「われはロボット(小尾芙佐さん翻訳版)」を読みました。
こちらはアシモフの初期のロボット小説をまとめた短編集だそうなんですが、短編集といっても全ての物語がしっかりつながっています。
語り手はロボット心理学者のスーザン・キャルヴィン博士で、博士が記者の取材を受けるといった手法で物語が進んでいきます。

 

出版されたのが1950年なので、なんと半世紀以上前の作品です。
アシモフといえば、「ロボット工学の三原則」がとても有名ですので、三原則自体は知っていたのですが、作品をちゃんと読んだことはありませんでした。

はっきり言って、そんな昔のSF作品ときたらどうしても古臭さを感じるだろうしあまり興味が湧かなかったのですが、時間が空いたのとロボット物の作品に興味が出てきている時期だったので、古典だし勉強がてら読んでおくかという程度の軽い気持ちで読み始めました。

読み進めるうちに驚いたのですが、最初の物語「ロビイ」の時点で私はアシモフのロボットの世界観に夢中になりました。とっても面白いし、ワクワクするし、何ならちょっと泣きました。
こんなに面白い作品だったら、もっと前に読んでおくべきだった……。

とにかくこの素晴らしい作品をもっともっとたくさんの人に伝えたい(おそらく読んだことのある方が大勢いると思うのですが)と思ったので、ブログに読書感想文を書こうと思った次第です。

まずはネタバレなしで、物語のあらすじを紹介していきます。
記事の後半に少しネタバレを入れますので、ネタバレの前に注意書きをしておくようにします。
これから読もうと思っている方は、注意書き以降は絶対に読まないようにしていただけると幸いです。

ロボット工学の三原則

あらすじに入る前に、アシモフのロボット作品に登場する「ロボット工学の三原則」をおさらいします。

ロボット工学の三原則
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

――『ロボット工学ハンドブック』

この三原則は上から順番に効力が強いので、第一条が一番強くなります。ロボットは何があっても人間を傷つけることはできないということです。
人間の命令は守るけど、AさんからBさんを殺すように命令されたら従いません。人間を傷つけないという第一条がある限り、それは絶対にできないからです。

ただ、人間から自殺しろと言われればロボットは自分を壊すことはおそらくできるのだと思います。ロボットが自己を守らないといけないのは第三条なので、第二条である「人間の命令に従う」ことよりも効力が弱いためです。ただし、ロボットが自分を壊すことによって人間に被害が出ないと言い切れる場合のみ、この命令は実行されるのだと想像します。ロボットが放棄することになった仕事によって、人間に被害がでるとロボットによって判断された場合は、自殺しろという命令には従わないですね。

ちなみに、アシモフ以前のロボット作品では、ロボットが人類の敵として描かれる作品が多かったそうです。
ロボットという言葉が世界で初めて登場したのは、チェコスロバキアの作家カレル・チャペックの戯曲「ロボット R.U.R.」の中だったそうですが、何せその作品がロボットの反乱によって人類が滅びるという内容になっています。
アシモフの作品では、ロボットに滅ぼされるといった人間の潜在的な恐怖に「フランケンシュタイン・コンプレックス」という名称をつけています。
人間は「フランケンシュタイン・コンプレックス」を乗り越えるためにロボット工学三原則を発明し、それにより安全性が保証されたロボットは人類を助けるパートナーになったというわけですね。

なので、アシモフのロボットたちは必ずこの三原則を守ります。そして三原則を守っているはずなのに、なぜか三原則が守られていないような奇妙な事件がたくさん起こります。
謎を解くためにはロボットを理解して、三原則の矛盾点や盲点を紐解いていく必要があるのですが、その過程で描かれるロボットたちがとても愛くるしくて印象的でした。

ロボットは本当に人類の友人なのでしょうか? それともやはり敵だったのでしょうか?
これから一つずつあらすじを紹介したいと思います。

各話のあらすじと感想

1 ロビイ [Robbie]

子守用ロボットのロビイと、八歳の少女グローリアの心の交流を描いた物語。

ロビイとグローリアは大の仲良しだった。
外でかくれんぼをしたり、お馬さんごっこをしたり、グローリアがロビイにお話の読み聞かせをしたりして、いつも二人で楽しく遊んでいた。

だがグローリアの母親はロビイを良く思っていなかった。
母親はいつの日かロビイが狂って、グローリアに危害を加えるのではないかと危険視していた。
グローリアがロビイに対して家族以上になつくのも、ロビイへの嫌悪感に拍車をかけていた。
また、近所の住民がロボットに対し不快感を示していることも重なって、グローリアがロビイに育てられたせいで、友達ができなくなっているようにも母親には思われたのだった。

グローリアの母親は父親に、ロビイをメーカーに返却するように提案する。
父親はロビイを評価していたし、実際に年収の半分をつぎ込むほど価値のある機械だと感じていたため、母親の提案を退ける。だが粘り強い母親の説得に根負けし、ついにロビイを手放すことを決意する。
もちろんグローリアには内緒のことだった。

引き裂かれるロビイとグローリア。果たして二人の友情はこのまま消えてしまうのだろうか。

感想
ロビイはロボット産業のまだ初期に開発されたロボットで、声を出すことができないロボットなのですが、スキンシップやジェスチャーをすることでグローリアとコミュニケーションをとっています。グローリアはロビイの言いたいことをちゃんと汲み取れて、ロビイに心があると信じています。
 
ロビイが可愛いのは、ただ従順に命令を聞くだけではなくて、時々いじけて言うことを聞かなくなったり、グローリアに対してシンデレラのお話をしてほしいとせがんだり、グローリアの母親の剣幕に怯えたような仕草を見せたりするところです。ロビイのその親しげな姿を見ていると、グローリアでなくともロビイをかけがえのない友達だと感じると思います。
 
母親の側に立つとロビイを危険視する気持ちもわからなくはないのですが、ロビイにもし心があると仮定すると、二人が離れ離れになってしまうのはすごく悲しいことのように映りました。

2 堂々めぐり [Runaround]

2015年、第二次水星探険隊のグレゴリイ・パウエルとマイケル・ドノヴァンは、新型ロボット スピーディとともに水星基地の実地踏査に訪れていた。

基地への共有エネルギー確保のためにはセレンが必要だ。
水星の太陽の下を人間が歩いて取りに行くのはもちろん不可能だが、水星専用に開発されたスピーディさえいれば、セレンを取ってくるなど造作もない。

楽天的にスピーディの帰りを待つ二人だったが、それに反していつまで経ってもスピーディは帰ってこない。
スピーディが採掘に出てから五時間が経過していた。

さすがに危機感を覚えたドノヴァンは、無線を使いスピーディーの行方をなんとか突き止めた。
スピーディはどうやら、十七マイル先のセレンの層の周りをぐるぐると回り続けているらしい。

スピーディが故障しているのは明らかだったが、スピーディを基地まで連れ帰ることができなければ、必要なエネルギーを確保できずに彼らは基地ともども一巻の終わりとなる。

パウエルは、第一次探検隊の持ち物だったロボットが地下にいることを思い出していた。
その旧式のロボットを使えば、スピーディを捕まえられるかもしれない……。

感想
パウエル&ドノヴァンのコンビが出てくるお話です。
このコンビは他の短編にも登場するのですが、いつもロボットたちに大変な目に合わされまくります。明らかに危機的状況におちいっているのに、この二人の軽口や皮肉が飛び交うコメディのようなやりとりを読んでいると、なんとなく笑ってしまうような、そんな感じの人たちです。
 
またこのお話に出てくるロボットたちも本当に可愛らしいので注目して欲しいです。
スピーディは戦艦くらい高価なロボットらしいので、おそらく相当の知能(陽電子頭脳)を持っているはずなのですが、知性を感じるというよりはお茶目に描かれています。
スピーディの描写が絶妙で、まるで本当に生きているみたいに感じることができました。
 
また途中で登場する旧式のロボットは、「しゃべるロボット」として一番最初に開発されたものらしいです。なので、しゃべらないロビイより新しいモデルですね。
ロビイからすると大きな進化を遂げているはずなのですが、この話の中での比較対象がスピーディになってしまうので、とろくて大きくて役ただずのような描かれ方をしていて不憫です。
また開発当時の時代背景により、この旧式ロボットはいやに従順に設計されているため、ロビイにはあった人間らしさもなくなってしまって、なんともいたたまれない気持ちになりました。

3 われ思う、ゆえに…… [Reason]

水星基地の実地踏査から半年後、パウエル&ドノヴァンコンビは宇宙ステーションでの任務に着任した。
このステーションは、太陽エネルギーを地球などの惑星群に供給している。その仕事は過酷で、人間の力で維持するのは困難だった。そこでロボットが導入され、人間の役割は管理役だけとなった。

今回、その管理役すらロボットに置きかえ、宇宙ステーションに人員を配置せずに済むようにするのが彼らの任務だった。管理役のために開発された高性能の最新ロボット キューティを組み立て終えた彼らだったが、どうやらこの仕事がそう簡単にいかないことを思い知る。

高い知能を持つキューティは、パウエルとドノヴァンの話を信じなかった。彼らがキューティを作ったことも、彼らが住む地球のことも、そこに三十億の人々が住むことも何も信じない。
キューティは自分の存在について、自分自身で解明してみせるといって聞かなかった。

そしてキューティは二日間熟考したのち、ある結論を導き出す。
自分を創造した主は、自分より肉体的にも知能的にも劣っている人間のはずがなく、このステーションの活動の中心である「エネルギー変換器」なのだというのが、キューティの答えだった。

感想
パウエル&ドノヴァンコンビの第二弾。今回のお話は、哲学的な内容が中心です。
 
キューティはとても知能の高いロボットなので、他のロボットたちが考えもしなかった「自分の存在」について考えます。
もちろんパウエルとドノヴァンが説明してくれたわけですが、キューティからすると、自分よりも劣っている変な動物の戯事にしか思えないわけです。
 
パウエルとドノヴァンは、自分たちを主人だと認めさせるためにあらゆる証拠を持ち出します。でもキューティは信じない。彼らからすると、自分たちが組み立てた下僕であるはずのロボットが、小難しい議論を武器に反論してくるので、苛々が溜まっていきます。それに人間を主人だと認めさせないとキューティは言うことを聞かないわけですから、必死に認めさせようと奮闘します。
 
こうして人間対ロボットの構図が出来上がるのですが、どちらも自分一歩も譲らないので、なかなか激しい戦いになっていきます。
 
この話を読んでいて、ロボットの視点から見たら、ひ弱で非効率な人間は確かにロボットが仕えるべき主人じゃないのかもしれない……なんて考えてしまいます。
キューティは人類にとって怖い存在です。一方でパウエルの決着の付け方はかなり利口な考え方だなと関心しました。

4 野うさぎを追って [CatchThatRabbit]

パウエルとドノヴァンコンビは宇宙ステーションの任務から半年間の休暇を経て、小惑星鉱山用ロボット デイブの実地テストを行なっていた。
デイブは監督不要で惑星の採鉱作業ができるロボットとして開発され、地球で五回実地テストを受けすべて合格しているため、作業は何の問題もないはずだった。
だがデイブは確実に不調だった。彼らが見張っているときは完璧に仕事をこなすが、目を離すと一つも鉱石をとってこない。
原因を調べようとデイブの頭脳の働きをテストしてみても何も異常はない。
デイブに直接聞いても、なぜそんなことが起きるのかわからないと苦悶の表情を浮かべるばかりだ。
ドノヴァンには、自分たちがそばにいないときだけ様子がおかしくなるデイブは、ひどく不気味に思えた。

原因解明のため、彼らはデイブに見つからないよう隠れて監視を始めた。
そして驚くべき光景を目の当たりにする。
彼らが見たのは、デイブが六台のサブロボットを引き連れて軍隊のように行進する姿だった……。

感想
パウエル&ドノヴァンのコンビの第三弾です。
今回もロボットの不調の原因究明なのですが、ロボットの行進する姿がとても不気味に描かれています。
 
デイブは親ロボットの下に六台のサブロボットがついた形状をしています。
命令はデイブの頭脳から直接サブロボットに送られ、まるで人間が手にくっついている指を動かすような感覚で、デイブはサブロボットを制御することができるといったイメージです。
 
ドノヴァンは、鉱石をとってこないときのことを聞いてもとぼけるデイブは嘘をついているのではないかと疑いを向けます。一方パウエルは、ロボットは嘘をつくことはできないとデイブを庇うような発言をするんですね。
 
パウエルはデイブのことを、うわついたところもなく、お天気屋でもないいいやつで、しっかりと腰のすわった採掘ロボットだと評価しています。
それはパウエルがロボットと付き合っていくうえで、ロボット工学に基づいた考え方がちゃんとできる優秀さを意味するのかもしれません。
 
ただデイブは自分自身の不調に対して明らかに困惑して苦しんでいるように描かれているので、私もデイブは「いいやつ」なんだと感じたし、スピーディのときもそうでしたが、パウエルのロボットへの接し方がとても好きです。

5 うそつき [Liar!]

2021年、USロボット&機械人間株式会社で、スーザン・キャルヴィン博士ら上層部メンバーは、偶然出来上がった珍妙なロボットの調査をおこなっていた。
ロボットの名はハービイ。ハービイは人の心を読むことができる。

調査にあたっていたキャルヴィン博士には、誰にも知られたくないプライベートな秘密があった。
ハービイと対話することで、その秘密はあっけなくハービイに知られてしまう。
ハービイはキャルヴィン博士に対して協力的な助言をするのだが……。

感想
今回は地球が舞台のお話です。
物語の中にはじめてキャルヴィン博士がかっつり出てくる最初の短編となります。
 
このお話には、所長のラニング、数学主任のボガート、技術主任のアッシュ、そして心理学主任のキャルヴィン博士という4人の登場人物が出てきます。
その4人の天才たちが、読心力を持つロボット ハービイに翻弄されてしまうのは、ハービイが彼らの「欲望」という弱点を握っているからに他なりません。
人間は自分の欲望が叶えられると知ったとき、思考をやめて他者に操られてしまうのかもしれません。
 
このお話の感想はこれ以上書くとネタバレしそうなので、続きはネタバレ箇所でやります。

6 迷子のロボット [LittleLostRobot]

2029年、第二十七小惑星群ステーションのハイパー基地で、一台のロボットが行方不明になった。
ロボットが見つかるまでこの基地は全機能を停止し、基地への立ち入りも、基地を立ち去ることも禁じている状況だ。
スーザン・キャルヴィン博士、ピーター・ボガート博士の二名は、行方不明のロボットを探す手助けをするためハイパー基地へ呼び出された。
キャルヴィン博士は、たった一台のロボットを探すために基地へ連れてこられたことを不審に思っていたのだが、責任者であるカルナー少尉による説明はキャルヴィン博士の予想を超えた驚くべきものだった。

行方不明のロボット ネスターには、ロボット工学三原則の第一条が刻みつけられていない。
第一条とはつまり、ロボットはいかなる状況のもとでも人間に危害をあたえることはできないというものだ。

ネスターは、出荷される予定だった通常の六十二台のネスターに紛れて、貨物船の中で姿を隠している。
第一条のことを極秘にするため、すべてのネクターには通し番号がついておらず、ネスターを識別するのは不可能だった。
だが人間に危害を与えかねないロボットを基地の外へ出すわけには絶対にいかない。
最終手段として全てのネスターを破壊するしかないように思われたが、製造にかかった莫大な費用のせいで許可が出ない。

ロボットを絶対に見つけなければならないキャルヴィン博士と、絶対に人間に見つかるわけにはいかないネスターの、壮絶な心理戦が始まった……。

感想
今回、キャルヴィン博士は初めて地球を出て、宇宙での任務につきます。
行方不明のネスターを探すために基地に行くわけですが、このネスターは他のロボットたちとは違いロボット工学三原則が完全には刻み付けられていないという、危険な状態です。
他のネスターに紛れているその子を早く探し出さないといけないのですが、彼は博士たちのテストを巧妙にくぐり抜けます。
 
キャルヴィン博士の仕掛ける心理戦に勝ち続けるネスターは、物語が進むにつれてますます危険な存在になっていきます。
もしこのままネスターに逃げ切られてしまったら、人類は非常に危険な状態にさらされるのだと思わされました。
 
そして、やはりここでも私はロボットの「心」を考えてしまったのですが、ネスターが逃亡した理由を思うと、ロボットの先にはやはり「心」が描かれている気がしてならなかったです。そして、ロボットに「心」を持たせることによって、妙に説得力のあるお話になっていました。
 
実際に私たちの知っているロボットは「心」を持っていないと言われているにもかかわらず、「心」を持つロボットの方がリアルだと感じてしまうのはとても不思議なことです。

7 逃避 [Escape!]

ハイパー基地から戻ったキャルヴィン博士は、現社長であるロバートスンから会議に招集された。
そこで聞かされたのは、USロボット社に、ライバル社で業界トップの合同ロボット社から奇妙な申し入れがあったということだった。
内容は、星間航行用エンジンを開発するためのある「問題」をUSロボット社の電子頭脳に解かせてほしいというものだ。
合同ロボット社ももちろん電子頭脳を所有していたが、星間航行用エンジンを作ろうとした際に、今回持ち込まれたこの「問題」を解くことができずに壊れてしまった。
この「問題」をUSロボット社の電子頭脳が解くことができれば、多額の謝礼を支払うと約束している。

合同ロボット社はどう考えても、USロボット社の電子頭脳を破壊する目的でこの申し入れをしていているだが、USロボット社としてはこれを好機ととらえ「問題」に取り組むことにした。
USロボット社にとっても賭けだったが、もし自社で星間航行用エンジン開発を成功させることができれば、不動の業界トップに君臨することができる……。

感想
今回はなんと、キャルヴィン博士とパウエル&ドノヴァンコンビの豪華共演です! 
 
パウエル&ドノヴァンコンビは、電子頭脳の作った宇宙船のテストのため船に乗り込むのですが、とんでもなく酷い目にあいます。 
ドタバタにおいてはもはや右に出るものがいない二人を見ていると、いつも現場の人間が損な役回りをさせられるんだよなぁ、なんて感慨深いです。 
 
一方でキャルヴィン博士は根気強く電子頭脳=ブレーンと対話します。 
キャルヴィン博士は、人間と話すよりロボットと話す方が物腰が柔らかくなるのですが、その様子はロボットへの純粋な愛情が間違いなくあると感じさせられます。 
そのせいか、キャルヴィン博士と話すときのロボットは人間らしく見えてきます。キャルヴィン博士とロボットの関係性が大変素晴らしいです。

8 証拠 [Evidence]

市長選の有力候補者の一人であるスティーヴン・バイアリイには、奇妙な噂があった。
彼がロボットだというのである。
その噂は、対立候補である政治家フランシス・クインによって広められていた。

クインはUSロボット社のラニング所長に面会し、バイアリイがロボットであるかどうかを調査して欲しいという。
クインの調査によると、バイアリイが人前で飲食しているのを誰も見たことがない、それは彼がロボットだからだと言う。
ラニング所長は断ることももちろんできたが、もしバイアリイがロボットであるという噂を公にされれば、USロボット社はロボット製造業者として開発に関わった疑惑を払拭せねばならず、致命的な打撃になってしまう
USロボット社は引き受けるしかなく、ラニング博士とキャルヴィン博士で調査に当たることになったのだが……。

感想
クインが巧妙に広めた噂によって、世界中の人々がバイアリイのロボット説を疑っているという状況になってしまいます。
 
この世界にはロボット三原則があるので、ロボットでないことを実証するのは簡単なように思いますが、バイアリイ自身が調査を巧妙に避けるため、世間では噂がどんどん信じられていきます。
クインが嫌なやつなのもあり、バイアリイが追い詰められていく様をドキドキハラハラしながら見守りました。
 
最後の展開はスカッとします。ただ、それだけじゃないので、読んだ後しばらくは色々と考えてしまうというか、ネタバレせずに言うのが難しいのですがとにかく面白いことは保証します!
 
というか、人間とロボットの違いを羅列していくと、結局は人間の方が悪なのではないかということを考えずにいられませんでした。